絶対零度付近で起こる超流動ヘリウム中の微粒子の不可解な動きは 目には見えない量子渦が操っていたことが明らかに
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本研究成果は下記のメディアで紹介されました。
◆5/8 日本経済新聞(電子版)
本研究のポイント
◇ 超流動※1ヘリウム中の微粒子の不可解な運動は、直接見ることのできない量子渦※2が操っていることを数値計算により証明
◇ レーザー光を照射して液体ヘリウムに漬けた金属から生成した微粒子を液面でキャッチする技術を開発
◇物理学分野において世界トップジャーナルである『Physical Review Letters』に掲載
概要
沙巴体育平台大学院 理学研究科の坪田誠教授、理化学研究所 創発物性科学研究センターのPeter Moroshkin元研究員(2018年4月より沖縄科学技術大学院大学所属)、同センターの河野公俊チームリーダー(2018年4月より国立交通大学所属)らの研究グループは、極低温※3の超流動ヘリウムの表面に浮かせた微粒子の中で不可解な動きをする一群の粒子運動は、量子渦の動きに起因していることを明らかにしました。
私たちの周りには、気体や液体のさまざまな「流れ」があります。そうした流れを理解するために理学や工学など多くの分野で膨大な研究が行われてきましたが、まだ十分な解明はなされていません。約500年前、レオナルド?ダ?ヴィンチは、複雑に乱れた流れ“乱流”のスケッチを描き、“渦”こそが、流れを理解する上で重要な鍵となることを指摘しました。
流れを探索するためによく用いられるのが、ミクロンサイズの微粒子を混入し、その運動を観察する手法です。本研究では、極低温(絶対温度約2度)の超流動状態の液体ヘリウムに漬けた金属にレーザー光を照射して破壊し、生成した微粒子を液面で捕集する技術を開発するとともに、液面に集まった粒子の中で他の粒子と全く異なる特異な動きをする一群の粒子が存在することを確認しました。その運動の理論および数値計算を行ったところ、目視できない量子渦が微粒子を捕獲し、動きを操っていたことが明らかとなりました。本研究成果は2019年5月3日(金)に『Physical Review Letters』にオンライン掲載されました。
※1 超流動…極低温になることで液体の粘性がゼロになった状態
※2 量子渦…量子力学的効果により現れる渦。渦の強さがそろい、安定である。理想的な渦とみなされる
※3 極低温…絶対零度(摂氏マイナス273度)に極めて近い低温を指す
?研究者からのコメント
最初に実験グループの観測結果を見たときは非常に驚きました。多数のヘリウム液面粒子の中で妖気漂う奇怪な運動を行う一群の粒子がいたのです。私たちが理論および数値計算を行い、二度びっくりしました。これらの粒子は、目には見えていない量子渦に操られていたのです。実験と理論の協力により新たな現象が発見?解明されました。
研究の内容
舞台は、絶対温度約2度(摂氏マイナス271度)の液体ヘリウムです。この液体は、量子力学的効果が強く効く量子液体(または量子流体)と呼ばれ、極低温になることで液体の粘性がゼロとなる「超流動」状態となります。その大きな特徴として、量子渦という渦が存在することが知られています。
本研究グループは、液体の超流動ヘリウム中に漬けた金属をレーザー光で破壊し、多数の微粒子を作って流体中に拡散させ、それらを電場により液面に捕集する技術を確立しました。捕集された微粒子の液面上の運動を観測したところ、他の微粒子と異なる奇妙な運動を行う一群の粒子の存在を確認しました(図1?動画参照)。
?超流動ヘリウムの微粒子の動きの動画はこちらからご覧いただけます。
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これら粒子の奇妙な運動が、超流動ヘリウム特有の量子渦に起因するのではないかと考え、理論および数値研究を行ったところ、確かに量子渦の芯に微粒子が捕獲され、量子渦の運動に微粒子が振り回されるとする描像が妥当であることがわかりました(図2)。
微粒子は、いわば、見えていない幽霊のような量子渦と結合し、量子渦に操られた運動を行っていたのです。これまでの流体力学や低温物理学では全く知られていなかった斬新なストーリーを明らかにしました。
今後の展望
本研究では、「微粒子」と「渦」という一見別のものが結合して動くという描像を初めて示しました。これは、乱流を含む、さまざまな流れの研究に重要な知見を与えるとともに、微粒子と渦を通じて流れを制御する道を拓くものでもあります。
資金情報
本研究は、科学研究費補助金(課題番号JP17K05548, JP24000007, JP17H01145)により実施しました。
掲載誌情報
発表雑誌:Physical Review Letters (IF=8.839)
論文名:Dynamics of the vortex-particle complexes bound to the free surface of superfluid helium
著者:P. Moroshkin1,2, P. Leiderer3, K. Kono1,4, S. Inui5, and M. Tsubota5,6
1) 理化学研究所 2) 沖縄科学技術大学院大学 3)コンスタンツ大学 4) 国立交通大学 5) 沙巴体育平台大学院理学研究科 6) 沙巴体育平台 南部陽一郎物理学研究所(NITEP)
掲載URL:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.122.174502