クラゲと脊椎動物 視覚の光受容タンパク質が可視光をキャッチするしくみの共通性を発見
沙巴体育平台大学院理学研究科の寺北 明久(てらきた あきひさ)教授、小柳 光正(こやなぎ みつまさ)准教授、永田 崇(ながた たかし)特任講師らの研究グループは、アンドンクラゲ(箱クラゲの一種)の目ではたらく光受容タンパク質の可視光をキャッチするしくみは、脊椎動物の光受容タンパク質のものと似ており、収斂進化※によって獲得されたことを明らかにしました。アンドンクラゲと脊椎動物の目はともにレンズを持つ点で似ており、これらは収斂進化によって獲得されたことが知られています。本成果により、これらの動物は分子のレベルにおいても独立に進化したそっくりな目を持つことが明らかとなりました。今回の発見は、視覚の光受容において、もっとも重要な分子である光受容タンパク質の機能解明と視覚進化の理解に寄与する成果です。本研究成果は2018年5月21日の週に、米国の科学誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』オンライン版に掲載されます。
※ 収斂進化:別の道筋を通って似た形質となった進化
アンドンクラゲ(左図)と、その目の模式図(右図)
【参考】アンドンクラゲは、小さいながら脊椎動物の目と似たレンズ眼(直径約0.3mm)を4箇所(円部分)に持つ。
本研究の概略
箱クラゲは発達した目を持つ最も下等な動物で、その目はレンズを持ち、小さいながら脊椎動物の目とそっくりです。これまでの研究から、箱クラゲと脊椎動物のレンズ眼がそっくりなのは収斂進化の結果と考えられています。
今回、2008年に同研究グループが同定したアンドンクラゲの光受容タンパク質について、可視光をキャッチするために重要な「対イオン」と呼ばれるアミノ酸残基を、変異体を作製し、培養細胞を用いて詳しく調べました。その結果、アンドンクラゲの光受容タンパク質の対イオンの位置は、他の無脊椎動物の光受容タンパク質とは異なっていましたが、脊椎動物の目の光受容タンパク質のものとは立体構造においては似た位置であることを見出しました。
進化における対イオンの場所の変化は光受容タンパク質の機能的な進化と深い関係があることが既に明らかになっていますので、対イオンという僅か1つのアミノ酸の進化における位置的変化が、光受容タンパク質の収斂進化のみならず、目の形の収斂進化をも促した可能性が考えられ、今後の解明が期待されます。
【参考】箱クラゲと脊椎動物の光受容タンパク質では、可視光受容に重要な「対イオン」と呼ばれるアミノ酸残基が、収斂進化の結果、似た位置に存在している。
本研究の波及効果
分子進化と形態進化の接点を解明することは、進化学の大きな課題の1つです。本研究において見出した、「目の光受容タンパク質分子の収斂進化がレンズ眼という光受容器官の形態の収斂進化と関係する可能性」は、この問題を解く上で重要な知見と言えます。
また、近年、遺伝子組み換え技術と光受容タンパク質を利用した新しい技術である光遺伝学が注目されています。光遺伝学では、実験動物の狙った細胞に光受容タンパク質を持たせておき、光を当てることで、生きた動物の中で狙った細胞の活動を制御できます。これにより、特定の神経細胞などの機能を動物の行動と結びつけて明らかにすることが可能となることから、光遺伝学は特に脳科学や神経科学の分野で重要な技術となっています。
同研究グループは以前、アンドンクラゲの光受容タンパク質は哺乳類のホルモン受容体などと類似した情報伝達経路を使って細胞応答することを見出しており、今回可視光をキャッチするしくみが明らかになったことで、アンドンクラゲの光受容タンパク質を利用したさまざまな波長の光に反応する光遺伝学ツールの開発が可能となります。
掲載論文、資金情報について
雑誌名:Proceeding of National Academy of Science the United States of America
論文名:Convergent evolution of tertiary structure in rhodopsin visual proteins from vertebrates and box jellyfish
著者:Elliot Gerrard, Eshita Mutt, Takashi Nagata, Mitsumasa Koyanagi, Tilman Flock, Elena Lesca, Gebhard Schertler, Akihisa Terakita, Xavier Deupi, and Robert Lucas
本研究は、マンチェスター大学(英国)およびパウル?シェラー研究所(PSI, スイス)との国際共同研究として、下記の資金援助を得て実施されました。
ヒューマン?フロンティア?サイエンス?プログラム?グラント『Adapting metazoan opsins for optogenetic applications』2014年12月~2018年11月