橋の鋼鉄部材を検査できる橋梁検査ロボット バイリム(BIREM)の開発(記者発表)
概 要
沙巴体育平台工学研究科の高田洋吾准教授らは、立体的な構造を有する鋼橋各箇所を自由に移動でき、目視検査が可能な橋梁検査ロボットの研究開発を行いまし た。運動解析や性能測定実験を行った結果、質量約660グラムのロボットが、自重と同程度の重りをぶら下げても安定した上昇移動が可能となりました。橋梁 構造物点検で必要になる水平部と垂直部の行き来や、段差や凹凸を有する路面走行に関しても、その走破能力を確認しました。
研究の背景
近年、海外において経年劣化した橋梁の崩落事故が相次いで発生しています。日本においても、戦後の高度経済成長期以降、各地で整備された道路網とともに建設 されてきた多くの橋梁、トンネルなどの社会基盤は劣化が進んでおり、これらインフラのライフサイクルマネージメントは極めて重要な位置付けにあります。こ の社会的背景を受けて、2010年4月に本学の工学研究科内に「インフラ構造物の健全度診断技術と長寿命化技術の開発」プロジェクトが立ち上がりました。 2012年12月2日、山梨県を走る中央自動車道上り線笹子トンネルで天井板のコンクリート板が落下し、死傷者が出る事故が発生しました。日本の社会基盤 および設備が老朽化を浮き彫りにする事件でしたが、さらに点検にはそれ相応な労力と費用が必要であり、社会基盤の維持費が日本経済に対して打撃を与えうる ことが連想されるようになりました。上記プロジェクトは、2013年4月に「ストックマネジメント研究センター」設立に伴い、より実用化に向けて学外と結 びつきを深め、産官学一体でインフラの長寿命化により一層力を注ぐようになりました。この橋梁検査ロボットは、プロジェクトおよび研究センターの目的に 沿って開発された研究成果の一つです。
バイリムの概要
橋梁検査ロボット?バイリム(BIREM : Bridge Inspection Robot Equipping Magnetsの略)は2012年2月に製造しました。将来的に点検費用を抑えることが最大の目的です。プロジェクトが立ち上がった2010年4月から、 橋梁を検査するロボットについての実現を試み、ヘビ型、クローラ型、車両型、歩行型など様々な形態の移動機構について構想を練り続けて、バイリム開発に至 るまで、22カ月を要しました。鋼鉄製構造物の検査用に用いるため、永久磁石が最適であると判断した上で、ヤドカリが木を登る様子の映像を開発のヒントと して、各車輪は設計されています。
基本設計をそのままにして、旋回能力と制御用コントローラを強化した第2号機を2013年8月に製造しました。
バイリムの性能表
サイズ | 全長: 0.34 m、幅: 0.16 m、高さ 0.114~0.124 m |
質量 | 0.661 kg |
走行速度 | 水平走行時 :0.2 m/s、垂直上昇走行時 : 0.15 m/s |
積載荷重 | 500 gの積載までは安定して垂直上昇可能 |
旋回半径? | 約0.45 m |
走行の特徴 | ?鋼板にぶら下がって走行可能 ?水平移動路と垂直移動路を行き来できる ?段差を乗り越えて走行可能 (ただし70mm段差は苦手) ?前輪と後輪にステアリング機構があるため4WS走行が可能 ?カメラ、レーザレンジセンサ、その他さまざまなセンサを搭載可能 (ロボットに相応の積載能力がある) |
制御系の特徴 | ?FPGA*を搭載 ?4輪独立回転数制御が可能 ?カメラモジュールを搭載して遠隔操縦が可能 |
飛行型との比較 | ?き裂損傷箇所について至近距離から時間を掛けて見つけ出すことができる ?風の影響をほとんど受けない ?検査費用と故障率が極めて低い |
期待される効果
このロボットには強力な磁石が先端にあるスポーク8本を持つ4つの車輪で構成されています。磁石は鋼材に吸着するので、鋼構造物の天井や壁などどのような場 所においても吸着しながら移動できます。他のロボットでは難しいとされる水平部から垂直部への移り変わりが可能であり、段差や凹凸があっても走行可能で す。そのため、立体的で複雑構造となっており、あちこちにボルトやリベットがある鋼鉄製橋梁の検査用として最も適したロボット移動機構の形態です。
また、このロボットは鋼材に吸着して移動できるため、橋梁に限らず、鉄塔、鉄製電線、インフラタンク、船底でも移動可能です。
今後の展開について
ストックマネジメント研究センターを窓口とした各企業様との共同研究開発を経て、ロボットによる橋梁検査の実用化を目指します。また、本ロボットにおける移動機構の派生型も開発を進め、橋梁に限らず様々な用途に対応できるように研究しています。
用語解説
FPGA(field-programmable gate array):製品を製造した後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路
※この研究発表は下記のメディアで紹介されました
朝日新聞、読売新聞、大阪日日新聞、産経ニュースWEST、日本経済新聞電子版「映 像」コーナー
研究内容に関するお問合せ先
沙巴体育平台機械物理系専攻 准教授 高田 洋吾
TEL : 06-6605-2970
E-mail : takada@mech.eng.osaka-cu.ac.jp